【島根大学の貴重標本類2】キャンパスから出土した縄文時代の櫂とヤス柄


縄文前期の櫂とヤス柄の出土状態
(1996年出土、島根大学松江キャンパス武道場)

 写真は、島大松江キャンパスの地表下4メートルから並んで出土した,約5300年前(近年の研究では,さらに数百年以上古い年代に補正される)の櫂とヤス柄です。
 長いもので全長250センチ以上,いずれもスギ製です。縄文前期のある日,1日の漁を終えた人物が置き忘れ,そのまま埋没してしまったのでしょうか?
 日本の気象条件下では,こうした太古の木製品が残存することはきわめて珍しいことです。この櫂とヤス柄は,地下水に常に浸された低湿地にパックされていたことから,数千年間,運良く形を留めることができたのです。
 それにしても,なぜ,島大のような内陸の地から櫂や漁撈具(ぎょろうぐ)が出土したのでしょうか?
 今から約6000~5000年以上前の縄文前期,地球温暖化のために海面は現在よりも数メートル高かったと考えられています。内陸の谷部に海が進入した「縄文海進」の時代です。
 島大松江キャンパスがある地にも,現在の宍道湖が日本海とつながった「古宍道湾(こしんじわん)」の入江が形成されていました。ちょうど,その水辺を舞台に縄文人が活動していたわけです。(参考ページ:水辺にあった松江キャンパス>>)

縄文前期(約6000年以上前)の水域(松江キャンパスの低い場所や朝酌川は海の中でした。)

 ところで,島根大学では,15年前から文化財保護法に準拠して,学内独自の研究機関が,キャンパス内の遺跡発掘を地道におこなってきました。13年前,調査を担当していた私は,現場からタイムカプセルのように出土してきたこの櫂を見つめながら,穏やかな入江の水面(みなも)を揺らして,丸木舟で静かに航行する彼らの姿に,しばし思いを馳せたものでした。
 現在,これらは,島根大学総合博物館本館で展示されています。悠久の時を越えて日の目を浴びた,「実物」が持つ力をぜひ,感じてほしいと思います。

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